相続手続相続財産遺産分割協議

遺産分割協議書にはこれを書け!

ここに遺産がある。さて、どうしてくれようか
これまでたびたび遺産分割の難しさを説いてきた。
各家庭によって事情は当然異なるものの、相続でもめる原因の多くは、

1)不動産など、そもそも財産が分けにくい種類である
2)遺族間のコミュニケーションが普段から希薄で、話し合いが進まない

が大半を占めるようだ。
それぞれのトラブルを解決する方法は既に述べたのでここでは繰り返さない(参考記事参照)。
今回は、実際にどの財産をどう分けるか、そして分けた結果をどう記録し、税務署に提出するかのアドヴァイスを示す。

相続が開始されて真っ先に行うべきは、誰が相続人となるのかを決め、遺産内容を確定することだ。
もちろん、遺言書があればこれらはほぼ確実に記載されている事項であり、遺漏や明白な不備が無い限りその記述内容が優先される。

相続人と遺産内容が決定したら、いよいよ当事者間で遺産をどう分けるかの話し合いに入る。これが遺産分割協議である。
遺産分割五つのパターン
一般に、分け方には次の五つ。

1)現物分割…遺産を換金などせず、そのままの形で分けること。現金や有価証券など、お金そのものや価値をお金で示しやすい財産でよくつかわれる。
2)代償分割…相続人の一人が財産を相続する代わりに他の相続人に現金を払う。
不動産や故人が営んでいた飲食店など分け難く、しかも価額が大きい時に採用されることが多い。
財産はそのまま保持しておけるため財産をお金に換えたくないときには有効だが、一人の相続人に財力が無いと難しい。
3)代物分割…相続人の一人が財産を相続する代わりに他の相続人に、自分が持っている金銭以外のものを渡す。受け取る方がもらうのは、あくまで生きている人間のものなので相続税はかからないが、所得税はかかるので注意。
4)換価分割…財産をお金に換えて遺族で分けること。自分達が望む割合で分けやすいが、そもそも現金に換えられるのか(たとえば、持ち家は売れるのか)という問題がある。
また、被相続人が住んでいた家に住み続けたい遺族がいると、その人が換金に反対するのは必定なのでもめることになる。
5)共有分割…相続人全員で遺産を共有する。
たとえば自動車を同居の家族で使いまわしたり、不動産を共有名義や分筆にするといったやり方がこれにあたる。
公平ではあるが、その財産を処分する時、遺族間で意見が対立することがある。

ここに挙げた方法はもちろん組み合わせることも可能で、たとえば長男が不動産を継ぐ代わりに他の相続人は骨董品などそれ以外の遺産を換金し、長男が代償分割で払いきれない分は埋め合わせすることなどもできる。
特に普段疎遠で話し合う機会が少ないご家庭では、お金という微妙な話題で話し合うのは抵抗があるだろうし、意思疎通がうまくいかないことも多々あるだろう。
だが、相続財産を放置しておくことはできないので、少しでも対立を避けるためにもお互いの意見を聞きつつきちんと話し合い、悔いの残らないように遺産を分けたい。
残された財産をめぐって親族でいがみ合うことは、故人は決して望んでいないはずだ。

相続人同士で遺産の分け方が決まったら、遺産分割協議書を作成しよう。
これは相続税を納めるご家庭には絶対必要だが、そうでない家庭には必要でないこともある。しかし、故人の預金の凍結解除※1の際には金融機関から要求されるし、不動産登記する時にも所有権がどう移転するのかを示すのに提出が求められるなど、何かと使う場面は多いので、作成しておくことを勧める。

具体的な作成手順に移ろう。
文書名がいかめしいため何か厳密な書式があるのかと思われるが、要は遺産をどう分けるかの記録であり、決まった書式はない。
また、自筆遺言書などと違い、ワープロで構わない。ただし、

1)財産の内容と相続人を特定すること
2)相続人全員が署名し、印鑑証明※2を受けた実印を押すこと
は必須だ。
特に、不動産なら所在地や面積、預貯金なら金融機関名から口座番号なども記入しなくてはならない(それぞれ、「被相続人の持ち家」「被相続人の預金を○○円」といった書き方は不可)。

作成例は次の通り。

遺産分割協議書
平成○年○月○日に死亡した被相続人□□の遺産について、同人の相続人全員に置いて遺産分割協議を行った結果、各相続人がそれぞれ下記の通りの遺産を分割し、取得することと決定した。


1.相続人○○が取得する財産
【土地】 所   在  東京都□□区○○丁目△番
宅地200.00㎡
【建物】 所   在  同所同番地 家屋番号□番
木造瓦葺2階建居宅一棟 1階 50.00㎡、 2階  50.00㎡
【家財】
同居宅内にある家財一式
2.相続人□□が取得する財産
【現金】   金○○円 【預貯金】          ○○銀行○支店 普通預金 口座番号00000000          ○○銀行○支店 定期預金 口座番号00000000  【株式】            ○○株式会社 普通株式  100株
3.相続人○○が負担する債務
平成×年度未納分固定資産税××円

3.○○は、第1項記載の遺産を取得する代償として、□□に平成△年△月△日 までに、金○○円を支払う。
4.本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については、相続人□□がこれを取得する。
以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、本協議書を何通作成し、署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。

平成○年○月○日

神奈川県○○市○○区○丁目○番地○号    相続人○○  ㊞
山梨県□□市□□町□丁目□番地□号     相続人□□  ㊞

最後に、遺産分割協議書の期限について。相続放棄の申述書(死亡から三カ月以内)や準確定申告(同四カ月以内)などと異なり協議書には提出期限は特になく、そもそも作成の必要すらないこともある。しかし、相続税の申告や不動産の相続登記などを行う場合は提出が求められるため、作成することになる。
相続登記は無期限だが、相続税の申告は死亡から十カ月以内なので注意されたい。

※1 亡くなった方の銀行口座は勝手に出入金ができないようにロックされてしまう。
これを解除するには、遺産分割協議書のほかに相続人全員の署名・捺印や戸籍謄本などが必要。
※2 個人が市区町村役場に登録した印鑑に対して発行される証明書。登録は、窓口に登録用の印鑑(三文判やゴム印は不可)と本人確認書類をもっていけばできる。

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