相続手続相続財産

相続トラブル発生!こんなときどうする?

相続と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。手続きが面倒、財産の分け方でもめそう、忙しくて猫の手も借りたいようになる……など、イメージは各人各様だろうが、少なくとも明るいイメージをお持ちの方はそう多くないはずだ。実際、相続にまっつ割るトラブルは増加傾向にあり、しかもその多くは財産を多くお持ちの資産家ではなく、めぼしい財産もなく、あるものといえば持ち家と定年退職金の残りくらいといった、いわゆる「普通の家庭」での問題発生が目立つという。

そのような事態に直面した時、どのように対処すれば丸く収めることができるのか。今回は、特に多いトラブルのいくつかを紹介し、同時にその解決法も示唆しよう。

ケース①故人が借金の保証人になっていた。
都内で割烹屋を営む料理人、Iさんが亡くなった。家族は配偶者と長男で、今回の相続人はこの二人のみ。Iさんは先代から引き継いだ店―亡くなる前に、先代は店の財産すべてと自宅の一部をIさん名義にしていた―をうまく切り盛りし、客足が途絶えることはなかった。葬儀は滞りなく済み、一時の多忙を切り抜けたある日、二人はしめやかに故人の思い出話をしていた。
「思えば親父は物静かだったけれど、いったん怒りだしたら手がつけられなかった。そういえば、こんなことがあった。僕が店の備品を勝手に持ち出して、友達の家に行って見せてやった。そうしたら、たまたま親父が帰ってきて、備品が無いことに気がついた。そうとは知らず、平気な顔して帰った自分は、大目玉をくらってしまった。大切な商売道具を勝手に持ち出しておもちゃにするとは何事だ、お前は商売人の魂を何と心得るんだ、店の道具二万一のことがあったらどう落とし前をつけてくれるんだ、なんて、雷を落としたっけ。その剣幕たるや尾にそのもので、とても堅気の人間とは思えなかったよ」と息子が切り出すと、未亡人となった妻も「そうそう。
普段はおとなしい人だったけれど、一度逆鱗に触れたらもう大変だったわ。結婚してから5年目に、お父さんが大切にしていたお皿を割ってしまったことがあったの。怒られるのが怖くてその時は内緒にしておいて、機嫌のいい時に告白しようと思ったのね。そうしたらばれてしまって、さあ大変。いつもは絶対に女性に手を挙げない人なのに、あの時は殴るは、けるは、たたくはで、死ぬかと思ってしまったものよ。全く、いいた子ことがしなかったわ。」

懐かしい昔語りをしていたその時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

戸口に立っていたのは、株式会社「共和国金融」の営業担当を名乗る男だった。挨拶もそこそこに、彼はこう切り出した。
「実はご主人は、当社で外国為替証拠金取引(FX取引)をなさっていました。そこで、誠に申し上げにくいのですが、相当な損をされていまして。」
Iさんが投資に手を出していたとは知らない二人はうろたえてしまった。だが、営業マンは証書のコピーを持参しており、そこには間違いなく故人の直筆によるサインと印鑑がしたためられていた。
そこで、おずおずと伺う
「その孫というのは、いくらくらいでしょうか。」
「ざっと、一億円ですね。」
「えっ。」
思わず息をのんでしまった。いくら経営が順調だったとはいえ、I三にそんな大金を自由に使える余裕があったとは思えない。もしかしたら、この男は投資額をごまかして、自分たちに一服もろうとしているのではなかろうか……。

だが、疑心暗鬼のままに話を聞いていると、彼はうそをついているのではないとわかった。FX取引はレバレッジによって、証拠金倍率が何百倍にもなる。つまり、数万円単位の証拠金を出せば、何百万円分物取引ができるのだ。それゆえハイリスク・ハイリターンの取引となり、初心者は迂闊に手を出さない方がよいとされる。しかし、商売が順調で気が大きくなっていた故人は営業トークに乗せられ、つい手を出してしまったのだ。

故人から受け継いだ資産は一億円には満たず、二人の財産を合わせても借金額には届かない。はたして、どうすればよいのか。

被相続人が亡くなった後に本人が借金していた、あるいは借金の保証人となっていたことが発覚するという話はそう珍しくない。今回は料理店経営者であるIさんが投資で失敗し、多額の借金を抱えることになってしまったという話。

今回のケースでは、相続人の二人が債務をすべて払えれば大きな問題はないのだが、そうでないと想定される場合、このまま相続すれば単純承認となり、プラスの財産だけでなく、借金をも相続することになってしまう。そこで、取るべき手段は相続放棄か限定承認だ。

相続放棄とは、相続人が被相続人のすべての資産・負債を最初から放棄することで、限定承認は被相続人の財産・借金を評価し、後者の方が多額の場合、すべての相続を放棄するというものだ。いずれかを裁判所に、相続を知った時(一般には、被相続人の命日)から三カ月以内に申し立てをすることで承認される。

相続放棄手続は裁判所が任命した弁護士が行い、相続人と相続財産の処分について協議が行われることはない。一方、限定承認の場合Iさんの遺産のうち資産価値を超える借金を放棄する手続きなので、その処分に関して、協議検討する余地がある。また担当する弁護士は相続人が依頼することができるので、有利に進めたり、予期に取り計らってくれるよう頼んだりすることも比較的容易にできる。限定承認した方がよいケースとしては、本件のようなときのほか、被相続人と債務を連帯して保証しているような場合も考えられる。

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