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決定版!親の財産を手っ取り早く調べる方法

 遺産相続で悩むことが多いのは、与えられた遺産を遺族の間でどう分けるか、そしてそもそも故人の財産はどれだけあるのかということだ。とくに、資産家でもないいわゆる普通の仮定の方が亡くなった時、話はこじれる。というのも、ある程度の財産を保持している方であれば生前から相続対策(相続税発生時に備えた節税や、財産の整理など)をしていることも少なくない。したがって財産の把握も比較的容易である。また、遺産分割に関して遺族がもめることを避けるため、遺言書を準備するなどの配慮があれば、話はさらに早い。遺言書の効力は大変強力であり、法に反した内容であったり、明らかに理不尽な遺言であって遺族が全員一致で内容を覆そうとでもしない限り、その内容通りに遺産分割が行われるため、そもそももめごとのおきようがない。

 だが、こうした対策をしていない家庭の場合、多かれ少なかれ、もめるか、なんらかのトラブルが生じることは覚悟しておいて損はない。実際、いかに親族とはいっても、故人の財産はやはり他人の財産であることに変わりなく、ごく親しかった身うちの方でも、先だった方の財産まで把握していることは少ない。

 とはいえ、むやみやたらと探していては時間と手間の無駄だ。しかも相続放棄の申立や相続税の申告には一定の期限があるため、迂闊に手続きを先延ばしにすることはできない。

 今回は、遺産分割の前に、そもそも親の財産がどこにどれだけあるのかを手早く把握する方法を確認しておこう。

 まず、故人の財産があって真っ先に思いつくのは不動産だろう。故人が不動産を所有していたかどうか、またもっていたとして、それがどのくらいの価値のあるものなのかは、毎年五月頃市区町村役場から送られてくる固定資産通知書を見ればわかる。

 この通知書には、通知を受けた人がその市区町村に所有していた土地や建物が記載されているからだ。

 その他の財産に関しては、預金通帳を見るという方法が有効だ。と言うのも、預金通帳の出入金の欄には入出金項目がついており、そこにはどのような理由で故人の口座からお金が引き落とされたか、あるいは入金されたかが記されている。たとえば入金項目に「配当金」とあれば故人が株をもっていた可能性が高く、「利息」とあれば預金はもちろん、社債や国債の存在も期待できる。「保険料」とあれば故人が生命保険などに加入していた可能性が生まれよう。また、故人の名前でお金が引き出してある場合、何のことかと惑われる方がいるかもしれない。

 これは多くの場合、故人が別の口座で預貯金をもっていたというケースである。つまり、他の銀行などに口座を開設しており、そちらに振り込んだ結果、本人あてに振り込んだお金ということで、故人の名前が出金項目に書かれるというわけだ。

 故人の財産を調べるうえで預金通帳が大きな役割を果たしてくれることを述べたが、次のような場合はどうするか。すなわち、故人がある銀行と取引があったことは分かっているが、通帳が見当たらない、または貸し金庫などに預けてあってなかなか手が出せないというときである。

 こうした際活用したいのが「照会手続」であり、これは口座の支店名や口座番号が分かれば行うことができる。

 ゆうちょ銀行であれば、まず郵便局より「貯金紹介兼回答通知書」を入手して必要事項を記入のうえで次の書類を添付して提出する。

・故人の戸籍謄本

・申請者が相続人であることを示す戸籍謄本(つまり、故人と申請者の続柄が分かる謄本)

・申請者の実印と印鑑証明

 不備等が無ければ10日程度で申請者の連絡先に通知書が届く。

 一方、銀行等それ以外の金融機関で必要な手続きは金融機関によって異なり、中には電話だけで残高照会をしてくれるところもある。

 まずは取引先の金融機関に問い合わせ、照会にあたって必要書類等が無いか確認するとよいだろう。

 さて、故人が有価証券をもっていたとしたらどうするか。中には有価証券を自宅に保管している方もいるが、たいていの場合は証券会社に預けてしまう。こうした保護預かりの有価証券の種類や数量を調べるには、預貯金と同様、残高証明申請書に必要事項を記入のうえ必要書類を手ぷして送付することになる。

 そこで求められるのはやはり戸籍謄本などだが、詳細は証券会社によって異なるため、請求書を入手する際などに問い合わせておきたい。

 最後に、故人が遺言書を書いていれば、通常そこには主な財産のことが記されているはずなので話は早いのだが、遺言書でなくとも、エンディングノートを残している可能性もある。

 これは遺言書がより親しみやすくなったと考えてよいノートのことであり、「作成者が亡くなった後、大切な家族が困らないように」という触れ込みの下、財産の整理や洗い出しを勧めている。

 これが見つかれば財産の把握がよりスムーズに進行することだろう。また、エンディングノートを残してくれるよう相続人が生前から働きかけておくことも有効だ。

 故人の還暦のお祝い、定年退職時などに、「今流行りだから」などと言って渡してみるのも一つの手段だろう。相続人は、ただ自分が財産を受け取るのを口をあけてまっているのではなく、自ら行動を起こし、もしものことがあった後のもめごとの原因を、少しでも多く摘んでおくという姿勢も必要なのだ。

 さて、ここまで金融機関に残った財産の把握について述べてきたが、ここで一つ疑問に思われた方もいるだろう。すなわち、金融機関に預貯金が預けてあるとして、それを引き出すにはどうしたらよいか、ということである。

 通常、ある人が亡くなるとその方の口座は不正な引出しなどを防ぐために金融機関側がロック(凍結)してしまう。そのため、相続人といえども故人の預貯金に手をつけられなくなるのだ。

 もちろん、故人の生前から預貯金をあらかた引き出しておけば、口座の凍結について気に病む必要はない。そうした対策をとっていなかった場合はどうするか。

 一般的には、口座の名義を相続人のものに変更するという方法が推奨されている。こうすると、従来の契約内容はそのままで、名義のみ差し替えて相続人が引き継ぐことになる。名義変更に必要な書類のうち、どこでも求められるのは次のものはつぎのとおりだが、金融機関によってはこれ以外の書類を求めることもあるので注意しよう。

・通帳

・戸籍謄本(故人および相続人全員の分)

・印鑑証明書

・住民票の写し

・遺産分割協議書(遺族が財産をどのように分けるのかを記したもの。特に書式は定まっておらず、遺族が作成するまた、ことになる)または遺言書

 人が亡くなり、葬儀など様々な費用が発生する時に口座を凍結されては資金繰りに苦慮することになる。そろそろ資金が必要と思われる時は、手元に資金を準備しておくなどの大作をとっておくことが望ましい。

 

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『負けない相続』 (amazonのサイトにリンクを張っています。) 2022年12月25日 第1版第1刷発行  著者 依田 渓一(三宅坂総合法律事務所パートナー弁護士) 発行所 (株)中央経済社

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